オンザロードを遠くはなれて・坂田ひさし 税込定価¥3,000
  • 森の言葉
  • 売れない歌手の見た夢なら
  • 旅の途中
  • くらげの唄
  • 俺たちは風さ
  • 白い道
  • ノマッド
  • この腕に抱きしめて
  • オン・ザ・ロードを遠くはなれて
  • 悠の贈り物
  • 風が吹いている

  • ライナーノート 友部正人
  • ライナーノート 坂田ひさし
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    購入方法

    森の言葉 森のなか道に迷っている ぼくは心を鎮めようと目をつむる すると回りの世界が目を覚ます 旅人は心に決めて歩きだす 梢を冷たい風が通り過ぎる いくえにも堆積された落葉の 落葉の上はやわらかい 森のなか生命あるものの営み やがてくる目覚めの時を想う すると回りの世界が目を覚ます ここには豊かな力がある ここに迷い込んだ旅人はくつろぐ ここにひとつの言葉があり 旅人はそれを心にしまう 森の麓の泉の水を呑み 旅人はまた歩きだす 道で出会った人たちに 森の言葉を話すために 森のなか道に迷っている ぼくは心を鎮めようと目をつむる すると回りの世界が目を覚ます すると回りの世界が目を覚ます もどる 売れない歌手のみた夢なら 売れない歌手のみた夢なら 月の裏側の広がりだろうか それとも街の片隅で立っている 女のやさしさだろうか ぼくは北の涯まで 行ってみたいと思い 少しばかりの金とギターを持って 家を出たんだ 道路の端っこに立って ヒッチハイク 運ちやんおいらを乗せてよね となり街までさ 言いわけぱかりで旅に出た 淋しいおいらにおさらぱしたかった でも北海道の空はとても高く 信じられないくらい広い 函館の街から北見の町へ 旭川から札幌 通り過ぎることで許される おいらの旅はまだまだ続く 正直ものの涙が語るのは やっぱり愚痴ぱかりなのだろうか ぼくがこの二十年生きてきたのは 本当のことだったのだろうか 考えても考えても頭の中は 疑問詞でいっぱい いくら考えても判んねえからまた旅に出る そこで出会ったのが君さ 背中に天使の羽根を持ち 夜の街をスイスイ飛ぴまわっている ぼくには君がそんな風に見えるよ君は夢そのものだった 売れない歌手のみた夢なら 月の裏側の広がりだろうか それとも街の片隅で 立っている女のやさしさだろうか もどる 旅の途中 暑い夏の風のくすぐる木陰で ぼくは少しだけまどろんだ それはちょうどよいほどの眠りだ ぼくの中から湧きあがる水を汲め それをいっきに飲み干すのだ それをいっきに飲み干すのだ 嵐の晩ぼくら抱き合い 氷の解ける音をきいた それは今まで知らないことだった 水は溶け合いコップからあふれた ぼくらは川になって流れていった ぼくらは川になって流れていった すべては夢のように過ぎていった ぼくの石は擦れてまるくなる 流れてきた所を思い出していた ぼくらは悲しいということを知っている ぼくらは海に日印をつけた ぼくらは海に目印をつけた もどる くらげの唄 ゆられ、ゆられ もまれもまれて そのうちに、僕は こんなに透きとほつてきた。 だが、ゆられるのは、らくなことではないよ 外からも透いてみえるだろう。ほら。 僕の消火器のなかには 毛の禿ぴた歯刷子が一本、 それに、黄ろい水が少量。 心なんてきたならしいものは あるもんかい。いまごろまで。 はらわたもろとも 波がさらつていつた。 僕? 僕とはね、 からつぽのことなのさ。 からつぽが波にゆられ、 また、波にゆりかへされ。 しをれたかとおもふと、 ふじむらさきにひらき、 夜は、夜で ランブをともし。 いや、ゆられているのは、ほんたうは からだを失くしたこころだけなんだ。 こころをつつんでいた うすいオプラートなのだ。 いやいや、こんなにからつぽになるまで ゆられ、ゆられ もまれもまれた苦しさの 疲れの影にすぎないのだ! もどる 俺たちは風さ 目の前に別れ道がある 何かを決めなきゃいけないと思う むかし親父の背中から覗いていた 時がたって親父の背中が小さく思えた 一人で歩く時がきたんだと知った 五月の風は心地良い香りを 旅の重さは俺を夢中にさせた 何人かの友だちが通り過ぎ また新しい友だちがやってきた そんなとき自由の唄を歌ってたおまえ 俺たちは風さ 俺たちは風さ まるでひとつの唄のよう 南の果ての小さな町で 俺たちは台風が来ることを知った おまえは「逃げないとだめだ」と言う でも俺はおまえにさよならを言おう おまえの背中にいると知ったから 季節はめぐりやがて冬がくる 喫茶店でコーヒーを飲んでいる おまえのそぱには女の子がいて 彼女を抱くおまえは幸せに見えた でもあの唄は聞こえてこない あの唄は聞こえてこない 俺たちは風さ 俺たちは風さ まるでひとつの唄のよう 俺たちは風さ 俺たちは風さ まるでひとつの唄のよう もどる 白い道 こんな雪の降る晩に 彼はピアノの前にいる 雪の落ちる速さとともに 人間の心の深さに辿りつく その白い道を歩いていく 彼に人々が気がついたとき 彼はもう横丁を曲がっているので いつまでも貧しいままなのだ 孤独の中でどんなに強く 弾き続けていようと その時代の人たちの耳には届かない こんな雪の降る晩に 彼が食べるために書いた歌は 貧しいひとたちの酔いどれ唄 それは深く温かい淋しさ 人間の逃げ出せる歌なのだ 閉じられた扉は開かれる 時代を超えぼくの耳に届く 彼は人々が自由に 足跡を残せる白い道 孤独の中でどんなに強く 弾き続けていようと その時代の人たちの耳には届かない 孤独の中でどんなに強く 弾き続けていようと その時代の人たちの耳には届かない こんな雪の降る晩に こんな雪の降る晩に こんな雪の降る晩に もどる ノマッド 季節のようにやって来て 誰も踏む事のない床に立つ 心の片隅に眠っている言葉 春の風の吹く丘の上 妻は普段より忙しくなり ぼくはと言えば普段より もっともっと仕事が手に付かなくなる 気持ちが泉のように湧いてくる 人のいなくなった街が好きだと言う もっとも深い沈黙の中で 裸の音楽を奏でる 人々の 飽くことのない繰り返し 見えない羊たちを連れ 丘や森を歩いている 今どこに豊かな緑があるのか知っている 彼は街を歩いているノマッドなのだ 彼はぼくらのためにやって来る ぼくらは酔いしれ時間を忘れ 空気は水晶のように澄み星は輝き 言葉は消えてぬくもりがある 見えない羊たち連れ 丘や森を歩いている 今どこに豊かな緑があるのか知っている 彼は街を歩いているノマッドなのだ 彼は街を歩いているノマッドなのだ もどる この腕に抱きしめて 夜遅くまで話をして ぼくらはそれぞれの場所に帰って行く せっかちに答えを求めているかのようだ ただただ広い草原の真ん中で 行方も知らぬままいるのか 多くの人達をぼくはみて来たし 風達の場所にも行ってみたけど 心がスベスベした手触りを求めているんだ ぼくらここで出会い言葉を交わす 植物達が光や水を必要なように 人の擦れ違う街や君が必要なんだ どうしても塞がらない隙間 君やぼくの街に風が吹き抜ける 忘れてしまえたらいいなと思う でもぼくは背中の荷物を投げ捨てようとは思わない そうさぼくは君をこの腕に抱きしめて この腕に抱きしめて この腕に抱きしめて もどる オン・ザ・ロードを遠くはなれて オン・ザ・ロードを遠くはなれて ぼくたちはこの街で暮らしている オン・ザ・ロードを遠くはなれて この日常を耕しているのだ たくさんの熱い想いを胸に 歩いてた 雨の路上を 心の居場所もないままに 歩いてた 空っ風の中を 自分らしくありたいと思って 心のままに生きてきたつもり かたくなに拒み続けてきた何かに 大きく息を吸い込んでYESと言ってみよう オン・ザ・ロードを遠くはなれて ぼくたちはこの街で暮らしている オン・ザ・ロードを遠くはなれて この日常を耕しているのだ 忘れてしまった始まりを思いだし 今ここにいるということを想いだし 時の速さに焦りを感じ でもそんなに遠くじやないと言い聞かせ ふたりの息子とかけがえのない妻と またうたいなよって言ってくれた友達と 心に強く想いつづけることで いつかそこに辿りつきたいと思うから オン・ザ・ロードを遠くはなれて ぼくたちはこの街で暮らしている オン・ザ・ロードを遠くはなれて この日常を耕しているのだ もどる 悠の贈り物 君にこの青い空をあげよう ぼくらが夢に見た空だから 夏のおいしい葡萄の汁を吸い 川のせせらぎの揺れる光をみる 朝の草の露で足をぬらし 日に焼けた石のうえに座る 君にこの大地をあげよう そこにぼくら宝物をみつけたんだ ぼくらはこの街で暮らしている 忙しくて擦れ違ってばかりいるけれど ぼくらここで出会い愛しあう 川の流れは速く足をすくわれてしまう 夕暮れの街を君がやってくる 歩いていても踊っているかのようだ 体が動く 動くと違った世界がみえてくる そうやっていろいろなものの繋がりを知る 君はぼくらに笑ってみせる その笑顔でぼくら和やかな気持ち ぼくらは今ここで静かに目覚めたい もうどこにも行けないことを知っているので 緑の丘を駆けあがり 遥か向こうの連なる山々の果て ぼくらの子供のそのまた子供ら この地球の上で生きていくのだから この地球の上で生きていくのだから もどる 風が吹いている 風が吹いている 六月に香る風が 風が吹いている 静かに祈りのように 駈けぬけていく馬の 手網をひき 気持ちの歩幅で歩く 風をこころの帆にうけて もう少しここで おしゃべりしていよう もう少しここで 耳をすましていよう こころのページに うたはわきあがり 子供たちの笑い声 風と子供たちはたわむれて 風が吹いている とぎれないささやきのように 風が吹いている 記憶の綾をたぐりよせ とどいた言葉と とどかなかった言葉 言葉は意昧をぬぎすてる いいうたをうたいたい いいうたをうたいたい もどる 「とどまることにした旅人」 友部正人 とどまろことにした旅人は、ぶどう畑の中に立っていた。 とどまることにした旅人は、頭の上の空を見上げてた。 とどまることにした旅人は、空のあとをついていくことにした。 どこまてもどこまでも歩いて行った。売れない歌うたいのように。 空にはぐれた旅人は、森のはずれで女に会った、 男は空の言葉を話し、女は森の声で歌った。 海いつもより荒れた夜、二人ははげしく愛しあった。 夜が明けて海が凪いだとき、二人は一人の子供と手をつないでいた。 とどまることにした旅人は、ぶどう畑の中に店を開いた。 毎日毎日カレーを煮込んでは、鍋の横にすわってギターを弾いた。 いつかはぐれたあの空と、またもう一度会うことがある。 そう思うと旅人は、一晩中でも歌えるのだった。 とどまることにした旅人は、愛をかまどの上にのせ、 中からとびきり元気のいい二人目の子供をとりだした。 愛するものをまた一つ手に入れた、とどまることにした旅人は、そうつぷやいた。 とどまることにした旅人は、はてしない空の下に今も立っている。 もどる ライナーノート 店の暇な時間にこれを書いている。 僕はカレー屋をしている。 がらんとした店の中で、さっきまで楽しそうにおしゃべりしていたお客さんの顔を思い出している。 これはひとつの区切りだと思っていた。 でも録音が進むにつれて、これは始まりなんじゃないだろうかと思うようになってきた。 これといって生活に不便を感じているわけでもないが、 このままでいいのかと言う想いが心のどこかにあった。 流れる雲のように浮かんでは消えていく想い、 もしかしたら百歳まで生きるかも知れない、 のばしのばしになっている想いをひとつひとつかたづけていこう。 明日では遅すぎる、今やりたいこと、今できること、今やらなきゃならないこと。 右も左も分からなかった僕に適切な助言をしてくれた橋本君。 毎週東京からかけつけて辛抱強く僕の良いところをひっばりだしてくれた廣瀬君。 この二人がいなかったらこのCDはできなかったでしょう。 カバーイラスト及びブックレットづくりに走り回ってくれた南さん、 友部正人さんには無理をいってライナーノートをお願いしました、 高校生のころから憧れでありつづける人であります。ありがとうございました。 「あなたはやりたいことはやるでしょ」と放っておいてくれた妻の真澄、 なかなかうまくいかない時にも僕の膝に飛び込んでくる二人の息子に、 このCDを捧げます。 l992年夏 坂田ひさし もどる



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